『土鍋の底』と『土鍋の傷』

『土鍋の底』はとくにいくら丁寧に洗ったとしても五徳との擦れ具合、吹きこぼれによるしみやすすなどで、使えば使うほどに色味が増して来るものにございます。
以前、雑誌で 
〈各家庭にある土鍋で同じ材料を同じ条件で炊いたとしてもそれぞれの家庭で味や風味が異なる 〉
との掲載記事を読んだことがございます。
「わが家の味の浸み込んだ土鍋を作ろう!」と思い立ち、これがきっかけでわたくしの土鍋好きが始まったのでございます。
わたくしはご飯を炊くのも土鍋にございます。白いご飯用、かやくご飯用、お粥用、鍋物用、1人鍋用、焼き物用、焼きカレー用と用途によって使い分けをしているのでございます。
その中でも一番手前のすすけた土鍋に一番の思い入れが。。。
ちょうど1年前のあのおぞましい映像の数々をみせつけた震災で、わが家でもわずかながら被害がございました。わが家の味が浸み込んだこの土鍋の片手も地震の揺れにより欠けてしまったのでございます。いろいろなものが壊れ、他は処分したのでございますが、この土鍋だけは処分する事ができず、その後セメダインで補修し本日もなお使い続けているのでございます。しばらくはこの傷を見るたびあの日からのいろいろな出来事を思い出してしまう日々がございました。しかし、この一年でふと思うことに変化がございました。ほんと些細なことではございますが、

「おっと、もうちょい奥に食器をずらしておこう。」
「飲料水のストックあとどんくらい?」

などわたくしにとって土鍋は毎日使うものでありますゆえにこのような些細なことを思い出すことが出来るアイテムとなったのでございます。

一年が過ぎたいま、『土鍋の傷』を見直し、「けして、忘れない。。。」と改めて決意するわたくしがございます。
一日も早く、心に傷を負ったみなさんに平穏な暮らしが訪れることを願うばかりでございます。Sato